月が綺麗ですね
【期間限定作品】
(言ってしまってもいいですか)






 放課後、音楽室で過ごした僕達は肩を並べて帰路に着く。
 最近では日課のように、そうする事が当然となっている。

 校舎を出た頃にはもう真っ暗で、空を見上げれば月が優しい光で僕達を照らしていた。

 月……。

 そう、それは彼女。
 僕の隣を歩く女
(ひと)

 今でも夢ではないかと思ってしまう。
 僕の隣に……想いを寄せていた彼女がいるなんて。

 新学期、あっという間に広がってしまった僕達の関係。
 今では教師でさえも知っている。

 だけど……。

「……一馬?」

 彼女が怪訝そうに僕を見上げる。
 僕の心臓を止めてしまえそうなくらい綺麗な顔で。
 形のいい唇で……綺麗な声で、僕の名を紡ぐ。

「つっ……月が、きき……綺麗、だなと」
「月?」

 僕の言葉で彼女が夜空を見上げる。

「満月……かな?」

 分身のような月を見上げる彼女はかぐや姫のようで。
 月に連れ去られてしまいそうで。

 僕は手を伸ばした。

「好きです、月
(るな)さん」
「私も好きだよ、一馬」

 彼女を腕に閉じ込めて、夢ではないのだと実感する毎日。

 いつになったら現実なのだと素直に思える日がくるのでしょうか。
 人通りのほとんどない小道で交わす口付けも、腕の中にあるか細い身体も、その心も、僕のものだと自信を持てる日は本当に来るのでしょうか。

 目を覚ましたら夢だったなんて事は……本当にないのでしょうか?






― Fin ―
ネガティブな一馬君でした。

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