大好きな彼女
― プロローグ ―
中学時代にスカウトされて雑誌モデルを始めた俺は、気が付けばテレビドラマにも出されるようになっていた。
最初はほんの軽い気持ちだった。
ただ早く自立したくて……でも親の力は借りたくなくて。
だから、たまたま声を掛けてきたスカウトマンの誘いに飛びついた。
しかし、顔が知られるようになってスケジュールの空欄が埋まるようになって……俺の生活は徐々に変わっていった。
ドラマ・映画・CM……メンズ雑誌のモデルも断れずにまだ続けている。
忙しさに追われてただ仕事をこなすだけの毎日。
楽しいとか楽しくないとか考える時間もない。
考える暇もないのだから当然充実感なんて感じた事もない。
本当に、ただ決まった仕事を無難にこなすだけでしかなかった。
移動の車の中で寝る生活がどの位続いただろう?
スタジオのシャワーを浴びる生活がどの位続いただろう?
自分の部屋って何のためにあるのさ?
ベッドって何?
もうその意味さえも分からない。
1人になる時間もなく、友人達とゆっくり会う時間も当然なかった。
徐々に仲の良かった友達が遠くなっていく。
そして知らない奴が友達面をし始める。
お前達なんか知らない。
名前も覚えてない。
そんな奴が友達面するな……!
俺という人間を置いて“望月 海(もちづき かい)”だけが有名になって忙しくなる。
テレビの中の“望月 海”は本当の俺ではないのに。
本当の俺はどこにいるのさ……?
どこで自分を見失ってしまったのだろう?
あんな役、他に出来る奴がたくさんいるじゃないか。
俺じゃなくたって構わないはずだ。
なんで俺なのさ?
俺はテレビに映ってるような人間ではない。
あんなにクールでもない。
あんなに大人でもない。
何でそんな大人なフリをさせるのさ?
俺にも感情はある。
笑うし、怒るし、泣くんだよ……。
俺はただの我が儘で生意気なクソガキなんだよ……。
本当の俺をどうして見せちゃいけないのさ?
どうして本当の俺を見てくれないのさ?
本当の俺を見てくれる人はいないの?
等身大の俺を愛してくれる女(ひと)……。
俺は……本当の俺を受け止めてくれる女(ひと)が欲しい。
そんな事を考えていた20歳の時に俺は彼女に出会った――――。
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